「おい、ナミっ。船だ船っ」

ルフィはメリーの頭の上から大声をはりあげた。アラバスタから出港してしばらく。
ニコ・ロビンによる一騒動あった後、キッチンにこもっているサンジとロビン以外のクルーはそれぞれ外で好きなことをしていたが、ルフィの一言で蒼い海に目を向ける。

「・・・小さい船ね」

ルフィが指差す先には小さな船。ナミがぽつりと言うが、少し思案顔。
風は逆向きな上に、船の横にパドルがついているというあまり見ない船だったせいだ。

「こっちに来るぞ」

迷いもなく近づいてくる船。眉間にしわを寄せて、ゾロは刀に軽く手をかける。

「ナミ、あれなんて船なんだ??」

「誰かいるぞ」

見たことない船に興味津々のチョッパーはナミの手を引っ張る。
しかしナミが答える間もなく、彼が見えてウソップはすでに物陰に隠れた。




黒翼と考古学者 1





「え〜っと、お前ら最近暴れてるっていう海賊だっけ??」

メリー号も決して大きい船ではない。
しかし、それよりも小さな船に乗っていた彼はメリー号に横付けして、悪びれる様子もなくクルーを見上げて言う。
灰色と黒の中間色のサングラスをかけていてあまり目がみれなくても、かっこいいと言われる部類に入るだろうのは見てとれた。

「おぅ、お前も一緒に海賊やるか??」

「「何誘ってんだよっ(のよっ)」」

メリーの頭の上からいつもの様に誘うルフィにナミとウソップは突っ込まずにはいられない。

「いやぁ〜、聞きたいことがあるんだけど」

「その前に。一体どこ向かってたのよ」

頭をガシガシかきながら言う彼を見下ろして、高圧的にナミは言う。
「そっちに行っていいか?」と聞いて了解をえた後、軽々とメリー号に飛び乗ってきた彼をチョッパーは「すげ〜」と、可愛らしく目をキラキラさせる。
ナミの真後ろに飛び、結果的にナミの目の前に立つ彼は、だいぶ身長が高い。ロビンよりも若干高いぐらいだが、ナミは無意識に身を引く。ルフィとゾロも彼がただ者でないことを感覚で感じ取り珍しく真顔になる。

「アラバスタにいるやつに用があってさ。BWの頭に」

「残党かっ!?」

メリーの後方にあるアラバスタの方に遠く目をやり、決意表明をした後のような凛とした顔をする彼。光が当たり紺にも見える髪は風にゆれていた。

ただ、『BW』という言葉に反応せざるおえないクルーも当たり前で。ゾロの一言で、ルフィもゾロ同様に臨戦体制になる。

「いや違うって、馬鹿ワニからロビンを助けに行くだけ…って言ってもわからないか」

ウソップとチョッパー、ナミは戦う意志がないとはいえ、ルフィとゾロが本気ではないにしろ殺気立たせているのに、彼は面倒臭そうにへらっと笑う。
その様子にゾロは更に殺気立つ。

「ん?ロビンって、ニコ・ロビン?」
「おぃ、手ぇかすか?」

ナミが彼の言葉の中の名前に気づくのと、キッチンからサンジが出てくるのはほぼ同時。
彼はキッチンから出てくるサンジに一瞬目をやるも、気になる発言をした彼女を見る。
しかし、大したことないと思われたように感じたサンジもいらつかずにはいられない。

「ロビンなら、いるぞ。」

ゾロやサンジとは反対にルフィは警戒を解き、何事もなかったかのようにキッチンを指差した。

「てめぇ!ロビンちゃんに何の用だ、ぁあッ」

目つきを悪くしながら怒鳴るサンジ。甲板に下りてタバコをつけるのも忘れない。
ゾロも抜きはしないものの、和道一文字に手をかけたまま目を逸らせずにいる。
彼の背面にあるせいで正面からだと見えにくいが、脇差しを持っているのを認知したからだ。
脇差しの長さは短いが、その分明らかにゾロ自身より立ち回りが素早い。出遅れたら負け。

「ロビーン、客だぶべぁっっ「てめぇ、ロビンちゃんになんかあったらどうすんだっ」

言い終わる寸前に、ルフィの画面にはサンジの黒足がめりこんだ。

「え、何。本当にいる「お呼びかしら?」

色が黒よりやや薄いサングラスといっても、やはり少し表情がよみにくい。
だが、驚いている様子の彼が発言し終わらないうちにロビンがでてくる。
彼の目はまっすぐロビンをみていた。




「ロビン」




サンジがでれっと「出てこないでいいよー」などと言いながら騒いでいても、
彼の声を聴いただけでクルーから彼へと目を移すロビン。


黒とも灰色ともとれるサングラスに風になびく紺の髪。
見覚えがある独特な服装に、指だけ出ている鉄鋼がついた手袋。
脇差し2本が後ろで交差しているのも見える。
驚きのあまり息をつまらせているロビンの様子を見て、クルーも黙って二人の顔を見比べるしかなくなる。



「なんだ、ここにいたのか」



ひどく安心したような彼の声はさざ波の<と同じぐらい穏やか。

「……ヒロ」

ゆっくり息を吸ったあと
ゆっくり彼の名前を口にした