少なくとも。

その船の航海士は彼女に会った時
自分が彼女にこんな気持ちを持つことになるとは思いもしなかった。

別に恋をした相手がいなかったわけではなかった、と航海士は思っている

ただ
ココヤシ村の方が優先であったのは、間違いない

自分のこの気持ちが本物なのか、問い掛けても答えはでずにいる
でも今は、同じ部屋にいるだけで胸が痛くなるのにはかわりない



揺れる揺れる





秋島の近くとだけあって、夜の見張り番はやはり冷える。ナミはサンジが用意したコーヒーにゆっくり口をつけた

「さむ」

メインマストの上で受ける海風は冷たくて身震いする。
それでも
思い出すのは、今頃女部屋で寝てるか本を読んでるかの考古学者

「ちゃんと寝てるかな」

一緒に過ごすようになってしばらく。
仲間になりたての彼女はまだ、同じベッドで寝ることに慣れてないようにナミは感じていた
深く息を吐くと、やや白い息がでる。それを見ただけで更に、寒くなった気がしてブランケットに首を埋めた。

ただ
白い息がでても、寒さより気になる彼女の顔を記憶の中から引き出してみる。

お風呂上がりのロビン
グラスを傾けるロビン
目を細めて笑うロビン
少し酔って薄赤いロビン

「よりによって、なんでロビンなのよ。私」

誰に話すではなく、呆れたようにぽつりと口からでた。まるで自分に言い聞かせるように。


ナミにとって、ロビンという考古学者は確かに始めから気になる存在ではあった。が、それはどちらかというと「何考えてるのか」ぐらいの軽い気持ちだったはずだ。

そう
少なくとも始めはそうだったはず。
なのに、先日寄った無人島でナミははっきりと思い知らされることになった
きっかけはほんの些細なこと




あの日は、久々の陸だったこともあり「麦藁海賊団」が宴会になるのは順当だった。
彼女は飲みはじめた時、ロビンの側にいた。当たり前のように。ただ、何か話すわけではなく、彼女の隣に腰を据えてキャンプではしゃぐルフィやウソップ、チョッパーを見ていた

酒豪の手元の瓶は簡単に空になり、何も気にせず彼女の隣から腰をあげてナミは船に続きの酒を取りに行く



この取りに行ったのがいけなかった、と何度も思うが後の祭りであるのは言わずもがな



ナミがそこそこの銘柄の赤ワインを手に船を降りると
さっきまで彼女の定位置だった場所に


ゾロがいた。


手が緩み、瓶を落としそうになる



自分でも、何故こんなに焦っているのかわからない

何故彼女の隣にゾロがいるのか、とイライラするのかもわからない
むしろ今すぐあの石頭を蹴飛ばして、すっ飛ばしてやりたいぐらいなのに


体全体ががどす黒い何かでうめつくされるような気がして、怖くなったナミはその場を離れてしまった。
気付いてはいけない、とサイレンが鳴り響いてるようで、苦しい




逃げ帰ってきた女部屋はひんやりしていた。小さなバーカウンターに手元の瓶を荒々しく置く。鈍い音が余計に焦燥感を増長させるだけで、ますますいらだたしい。
その上、頭に思い浮かぶのは、イライラの原因。


思い出したくなくても、振り払うように頭を振っても、チカチカあの場面が映る。

気付いてはいけない
と自分に言い聞かせるように、瓶の蓋をあけてらっぱ飲みをする。
やけくそになり始めていることに、ナミ自身も気付いていたが無視する。



それを制止し瓶を取り上げたのは、彼女だった

「どうしたの?航海士さん」

心配そうに隣に立つ彼女の顔は、お酒のせいなのか薄赤い。取り上げた瓶の中身を確認しながら「いくらなんでも、らっぱ飲みにはもったいないわ」と銘柄まで確認している。

そんな些細な仕草や表情に心臓が急にうるさくなったことに、ナミは焦るばかりで彼女になにも言えなくなる。瞬間的に怒りが様相を変えることに、頭がついていってない。 「大丈夫?」

首を傾げて顔を近づけてくる彼女の顔のせいで、ますます思考がぐちゃぐちゃだ。
パンドラの箱を開けそうな自分と、開けまいとしてる自分。
どっちが本心なのかもはやわからない彼女に、ロビン自身は心配そうな顔をするだけ。
しかし、酒のせいとはいえロビンの高揚した顔は徐々に思考を停止させていくのに十分なほど強烈だった




無意識でロビンの顔に自分の顔を近づける。うるさい心臓の音すらも耳に入らない





「航海士さん?」

間の抜けた声に引き戻される。ナミの鼻はロビンの鼻にくっつかんばかりだった。
一瞬息を飲んで、固まる。今しようとしていたことがばれないように、慌てて取り繕う。不安な自分を隠して、更にロビンを覗きこむ「綺麗な目、してるよね」
その後、何か言って早々に布団に潜りこんだ






「はぁ。あれはちょっと」

肩にまで下がってきたブランケットを直しながらつぶやいた。ちょっと、なんなのか。自分で自分に突っ込みたくなる。

ただ、ロビンに魅入ってしまいキスしようとしていた自分を改めて思い出すと、恥ずかしくなる。
と同時にロビンのあの農艶を思い出してしまう。
ナミは胸を押さえながら、縮こまる。波は凪いでいるのに、ナミの心は大荒れ。
海の静かさが今は嫌になる。

あれ以来、ナミはロビンを真っ直ぐ見れていない。気を緩めると勝手に自分の目は彼女を求めてさ迷う。

意識しないようにしているのに
意識してしまう

「どーしよ」

もういっそ、認めてしまおう。そう思いながらも「いいの?」と問い掛ける理性的な自分を、ナミは押しのける





この想いは
どうしようもないのだ





「ロビン」

熱く熱く、情のこもった音色で。
そして、切なく。