「ねぇ。ヒロはなんでロビンを助けに行こうとしたのよ」

ロビンが髑髏の破片を見つけてはくっつけ、原型に戻していく作業を熱心に行う後ろでナミは小声で彼にきいた。
ロビンにはばれないように、彼の方をむかず。

「んーロビンには幸せでいてほしいからねー」

彼もまた、ロビンの後ろ姿に目を向けたままいう。
まだ日が高く、サングラスを外せない彼の目は見えないが。

「好きなんだ、ロビンのこと」

たった数時間一緒にいるだけ。
それでもナミは疑問も持たずに納得出来た。
彼には聞こえているはずだが、特に何か返答するわけでもなかったが。
ただ一点を見てることが彼なりの答えのような気がした。

「ナミちゃん、そっとしておいてくれよ?」

まるで自分の心を読まれたようで、ナミはギクッとした。

「諦めてるわけじゃない。けど、あいつが自分で気付かないと、意味がないからさ」

ナミにそっと耳打ちをした彼はやっぱりヘラッと笑っていた。
「でも、ありがと」といってナミの頭にぽん、と手を置いた後、ロビンの作業を見に行った。




黒翼と考古学者 5






さるあがりな変な奴に出会った後、一行はジァヤ島に船を向けていた。

その船の後甲板で、ゾロとヒロは鍛練の最中だった。

といっても、二人はまるで動と静だ。
ゾロは団子のようなダンベルを持ち上げては振り下ろしている。
その隣でヒロはただあぐらをかいて、瞑想しているだけだった。

ゾロはちらっとヒロを見て問う。手は休めない。

「そんなんで強くなれんのかよ」

「んー俺にはこれが性にあってるからね」

ゾロが違和感を感じたのはその時だったヒロから受ける圧迫感が徐々にキツくなっていく。

ヒロがそこから動かないとしても、ゾロはダンベルを持ち上げたまま動けなかった。
動けずに汗がポタッと落ちる速度さえも意識してしまう。
ルフィとチョッパーが前方で大笑いしている声がやたら大きく聞こえた。

「これで十分かな?」

やはりヘラッと笑っていた。そんなふうに笑う人物から放たれるような雰囲気ではない。
しかもおそらく、彼とゾロにしかわからないようにしている。
ゆっくり圧迫感をヒロの周囲だけに収縮していくのを感じて、詰まっていた息をゾロは抜いた。

「いつか、手合わせ願おう」

彼がゾロから視線を外し、瞑想に戻ったヒロにまたダンベルを振り下ろし、彼は言った。
ヒロはゆっくり頷いて答えた。


ヒロの鍛練は瞑想を中心にして行われる。瞑想をしばらくしたあと、ヒロは体術の型を行う。ただ、その動作すらゆっくりだ。そしてまた瞑想に移る。
この繰り返しを数回行なうのが、ヒロの日課。

ゾロが前の方の甲板に行ってすぐ、入れ代わるようにロビンが来た。
メリーの後方を向き、こちらに振り返る様子もないヒロの近くにロビンは腰を据えた。

「どうした?ロビン」

「私と別れてからどうしてたの?」

特にロビンを見るつもりはなかったが、その問いにヒロは内心驚きながらもゆっくり振り返った。至極、普通に。
そこには、彼の記憶の彼女よりも大人びてみえるロビンがいた。
ただ、真っ直ぐ相手を見るのは変わっていないのが分かると、ヒロの頬は少し緩んだ。

「なんだ、気になるのか?」

少し意地悪をしてみたくなってしまうのは、多分ロビンだからだろう。

「ただ聞いてみただけよ」

特に感情を見せずにロビンは言うが、目を逸らした。
閉ざした心のような表情は、大人びても変わっていないことに安堵感と辛苦を感じてしまうヒロ。

まだ自分も大人ではないのだ、と思ってしまう。彼女が幸せならそんな表情しないだろう。

まだそんな表情をするなら大事な人が出来てない。という安堵感
まだそんな表情をしなくていい人に会えてない。という辛苦

「色んな所に行ったし、色んな奴に会ったよ」

ロビンの隣に座り直し、彼女と同じように船の足跡をみながらヒロはいった。

ロビンはヒロを少し盗み見る。
ヒロは会った時より、がたいが良くなった気がした。
落ち着いている感じも、ロビンの記憶している昔の彼よりも更に落ち着いた気もする。
自分の知らない所で彼はより大人びていく。
そう思うと心臓の辺りが少し痛むような気がした。

「そう」

たった2ヶ月しか共にいなかった彼に、今自分が持ち合わせている感情をロビンは持て余していた。

「ゆっくり、一つずつ話してやるよ」

ヒロはぽんっとロビンの頭に手を置く。くしゃくしゃ、と子供をあやすようにしてから立ちあがった。
前方でルフィが島を見つけたらしく騒いでいる。

「子供扱いしないで」



「してないさ。ただお前が愛おしいだけだ」

ロビンのキツイ口調をさらりとかわして、ヒロは前甲板のほうへと立ち去りながら言う。

ロビンはますますよくわからない感情で、固まってしまった。


そんなロビンを見ることなく立ち去るヒロ。30近くの、しかも4億以上かけられている男が彼女の前ではカッコつけたがることに少しあきれたように自分で呆れているようだった。

「まだまだガキだなー俺」

つぶやきは波音に消された