ヒロ・ネブラディア・グリードが麦わらの一味に入ることになった同日。

彼らはログポースの指針を空に奪われることになる。

現か夢か

それはどちらでも同じこと

楽しんだ者が勝ち




黒翼と考古学者  4





「なんで空から船が降ってくるんだぁ!?」

思いがけない物が降ってきたためにメリー号は悪戦苦闘。
しかし今回ばかりは海賊船にしてはやや小型だったのが功を奏した。

「いやぁ、びっくりだぁ」

ルフィがトレードマークの麦わら帽を押さえながら、上を見上げてひやひやしている隣でヒロはのんびり言う。

「本当に奇っ怪だぜ」

「上にはなんもねーぞ」

サンジとゾロも空を見上げるが、先程ガレオン船を落ちてきたことなどなかったかのような見事な快晴だ。

「一体何なのよ。グランドラインは船まで降・・・あー!!」

ナミがぐちぐち言っていると思ったら、腕のログポースを見て絶句している。

「どうしようっ!ログポースが壊れちゃったっ」

腕を上下にふって、もう一度覗き込むも指針は今まで向いていた方向とは全く別。顔が青ざめていく。

「上を向いてなおらないっ」

ナミの焦りようはクルーもさすがにまずい事態になったことを感じる。

「ちがうわ。より強い磁気を持った島にゆってログが書きかえられたのよ。指針が上を向いているということは」

クルーのなかでやや冷静なロビンとヒロ。しかし、やはりロビンも動揺は隠せない。
空を仰ぎ見る。

「俺たちは空島にログを奪われたんだ」

同じように上をむくヒロ。

『空島ぁっ!?』

ルフィは目を輝かせずにいられない。
「なんだ、空島って!」チョッパーも嬉しそうだ。

「まさかっ、嘘でしょ。そんな、空に島があるなんて。聞いたことない。やっぱり壊れたのよ。あっ、ねぇヒロのは?ヒロのは大丈夫でしょ」

常識的に考えてもありえないことは受け入れ難い。
しかもこの船のクルーの大半は・・・あんなだ。頼りたくもなる。

「んー俺のはもーないんだわ」

ヒロは申し訳なさそうに言う。しかし、ナミの怒りに触れたらしく「どういうことよっ」と首根っこを掴まれ叱られる。

「大事な荷物以外は自分の船に置いてあったから。今はもう・・」

とヒロの船が繋いであった方を指差すも、そこには何もない。
先程の一騒動の時に巻き込まれて海の底へと沈んでしまっている。
その事実に愕然とするナミ。

「いい、航海士さん。今考えるべきは空島への行き方よ」

「そんな…」

ロビンの言葉はナミに少々キツく伝わったように、ヒロは思った。
別にロビンはナミを責めているつもりなどない。
ナミも責められている、とまでは思っていないだろう。
だが
思いやるからこそポーカーフェイスになるロビンを、やれやれと思いながらヒロはナミにフォローを入れる。

「ログポースは絶対に壊れてはいないよ、ナミちゃん」

「グランドラインでは、どんなに信じられないことがあったとしても、ログポースだけは疑ってはいけない。指針が指す先に必ず島はある」

ヒロのフォローも虚しくロビンはナミに言い放つ。
ヒロは諦めたかのように、少し溜息をつくと視界に入ったウソップが気になり、そそくさとそちらに行ってしまう。
だが、ロビンは仲間を想い、大切に思うからこそ、
ナミに言わずにいれなかったのだろう。
この小さな船の大事な航海士に


といっても肝心のナミは


ロビンの言葉をきちんと聞きつつも、ウソップの側で物をいじるヒロを訝し気に見ていた。



ヒロはそんなに歳いっているように見えない。だがその実、大人だ。
気分の上がり下がりがものすごくあるわけではなく落ち着いていることを、ナミはなんとなく気付いていた。


特に、ロビンが絡むと。
彼をよりものすごく大人に感じるナミがいた。


「お、ロビン。これ」

ナミに言い聞かせるように見つめ続けるロビンにヒロはウソップの傍らに落ちてる髑髏をロビンに見えるように置き直す。


「ほら、これはロビンの得意分野だろ?」


そうやってロビンのことを、ひどく優しい目でみていることもナミはなんとなく感じ、


なんとなく
羨ましかった。