「なんだ、ここにいたのか」

ひどく安心したような彼の声は穏やかで。

「……ヒロ」

ロビンはゆっくり息を吸って
ゆっくり彼の名前を口にした


その声がそれまでと違い、ほんの少し色付いていたのに気付いたのはナミとサンジだけ。

「え?ロビン、知り合いなの?」

ナミは何も気付いてないかのように、問いただした。ロビンもナミのポーカーフェィスに気付いてないようだった。これもまた彼女のイメージとは違う。



黒翼と考古学者3





「BWに入る前に、短い間だけれど一緒にいて」

答える彼女の視線は問い掛けたナミではなく、彼に向けられたまま。
きっと彼もサングラス越しにロビンを見つめていて、そこから視線を外せない。

「ロビン。ポーネグリフは見たのか?あのワニ野郎は?」

慌てているわけでもなく、キツく聞くでもなく。淡々と、彼はきく。
彼は今、目の前で刀に手をかけた海賊狩りも、ため息とともに煙を吐くコックも眼中にはない。
ただ、それでも彼に隙はない。

「ワニ野郎も知ってるぞ」

「ワニ野郎って、クロコダイルのことか?」

ルフィは頷く後ろでチョッパーがびくびくしながら尋ねる。
ただし、隠れ方は相変わらず頭隠してなんとやら。
そんな様子に気付いたのか彼はチョッパーに目を移す。

「「あー。。。そんな名前?」」

「「知らんのかっ」」

チョッパーの仕草には何も言わずにへらっと答える彼とルフィ。に、思わず突っ込むゾロとウソップ。
ナミにいたっては「あんたが倒した奴でしょーがっ」と首をひっつかんでルフィを揺さぶる始末。

「あら、そうなんだ」

「えぇ。今ごろ海軍にお世話になってるわ。それにちゃんとポーネグリフも。期待してたものではなかったけれど」

ロビンは笑いながら、楽しそうに彼に言った。
そんなロビンが彼は嬉しかったのだろう。彼の顔もまた、笑顔だ。

「そうか」

「クロコダイルに会いに行くつもりだったの?」

ナミは確認するかの様に尋ねたが、彼が答える間もなくウソップが話しかける。
途中で遮ったのはロビン。

「あんな奴に勝てねーよ。ルフィだって苦戦したんだ。だがっ!!勇敢なるオレ様の活躍で・・・「あら、長鼻くん。ヒロなら問題ないわ。一度、彼に勝ってるもの。数分で」



「「「「えー!?」」」」




ロビンの言葉に、ルフィとナミ、ウソップ、チョッパーはガバッと彼を見て叫んだ。
ゾロとサンジは不敵な笑みを浮かべる。

「あーそうだったっけ?」

「何もんだ、てめぇ」

とぼけているというわけではなく、本当に忘れている様子の彼にゾロは好敵手を見つけたかのように言う。

「しがない旅人だよ」

肩透かしをくらうほど、くたっとした表情で笑う。
毒気を抜かれてしまったゾロは、彼に背を向け放り投げてあるダンベルに手を伸ばした。
「つえーんだなぁ」とルフィは嬉しそうに彼をみるだけだ。

「仲間になったら頼れそーだぞっ、ルフィ」

「おー!いいなっ、それ」

「あーじゃぁ、申し訳ないが次の島まで頼めないか?」

チョッパーとルフィの言葉が聞こえていないふりをして、流して頼み込んだ。

「おぃ、一緒に海賊やろぅ!」

「「またかっ」」

彼の頼みをさらに流してルフィはお決まりの台詞。
毎度のことながらナミとウソップは飽きれてしまう。
そんなやり取りさえ、微笑ましく楽しく思えてしまうロビンを彼はそっとサングラス越しに見る。その目はきっと柔らかい。

「ぃや、有り難いんだが断る」

「なんでだ?楽しいぞ、海賊」

癖なのか、また後頭部をがしがしする仕草をしながら困ったように言うが、ルフィはいつもの調子だ。

「ぃや、だからね・・「諦めなさい。うちの船長、決めたら絶対譲らないから」

年下のルフィをなだめるように言おうとするが、ナミに遮られた。

「それに、ロビンはうちのクルーだから。側にいられるわよ?」

遠回しにロビンと彼の関係を探ろうとするナミ。目が怪しい。
しかし、彼は「んー」と言いながらロビンを見る。

「なぁ、ロビン。ここは楽しいか?」

「ええ。とっても」

ロビンの答えに彼は笑った。そんな短いやり取りで済ませてしまう。





畏まったように、彼は右手を胸に当て、軽く頭を下げて言った。
「では、船長。名はヒロ・ネブラディア・グリード。一応、札付き通称“黒翼”4億6000万ベリー。あんまし戦ったりは好きじゃないが、剣士として厄介になるよ」

「おぅ!!」

ルフィにとっては気にならなるようなことではないのだろう。
ヘラッと笑う彼からは想像がつかないほどの額に、ロビンを除く他のクルーは驚かずにはいられない。
一様に瞬間的に息をのんでしまい、叫ぶことになる


「「「4億6000!?」」」