「ロビン」

彼の声を聴いてクルーから彼へと目を移すロビン。

黒とも灰色ともとれるサングラス。
風になびく紺の髪。
見覚えがある独特な服装。
指だけ出ている鉄鋼がついた手袋。
脇差しが2本。

「なんだ、ここにいたのか」


ひどく安心したような彼の声はさざ波の音と同じぐらい穏やかで。

「……ヒロ」

ロビンはゆっくり息を吸ったあと
ゆっくり彼の名前を口にした


その声がそれまでと違い、ほんの少し色付いていたのに気付いたのはナミとサンジだけだった。



黒翼と考古学者2






オハラを出て十数年。



オハラから逃げ延び、色々なところを転々としすぎてしまっていた。
自分から裏切った海賊。裏切られた海賊。
一体いくつの海賊に身を置いたかは、もう本人しかわからない。


そしてまた、身を置いていた海賊に追われる。



「はぁっはぁっ」

足が悲鳴を上げている。とある島に着いて早々、久々に走るはめになってしまったことにロビンは後悔していた。

「追いついたぜっ、ロビン!」

ロビンの後ろは高い崖。
前には血相を変えて追いついてきた、さっきまで『仲間』だったハズの海賊たち。

「お前の首を差し出しゃぁ、海軍も喜ぶだろうよ」

ロビンの能力を知ってか、武器は持たずに追ってきた連中に「少しは頭いいのがいたのね」と思いながら、息を整える。

「おいおい、女の子一人相手に恥ずかしくないのか?」

呆れたように頭の上から声がした。ロビンと連中が一斉に頭を上げた先、崖の上に声の主がいた。
ふわっと言う効果音が似合いそうな程、柔らかく彼は飛んだ。
ロビンと海賊連中の調度真ん中に飛び降りてくるまで、ロビンも彼らも彼から目を離せない。


「何もんだ、てめぇ」

感覚で敵わぬとわかるのか、海賊の頭がゆっくり前に出てきて彼に問う。
口調は激しくなく、冷静。

「さぁ、誰でしょう?」

息を整えるロビンは目の前の彼の背中に縫われている紋章に見覚えがある気がした。

月に手を伸ばしているように見えるが、羽がモチーフのようだ。
月に見える円のなかには金糸の文字。
その紋章が書かれている服はどこかの国の『じんべい』と言われるものに近い。
下は少しゆったりとした、ただ生地は軽そうな黒に近い紺。
裾はくしゃっと靴に入れていた。

「あなたには関係ないわ」

「つれないなぁ」

顔を少しロビンに向けるが、サングラスをしているのがちらっと見えただけだった。

「船長!こいつ『黒翼』だっ」

「こくよく?」

船長の隣のスキンヘッドが彼を指差していう。スキンヘッドよりも後ろにいる何人かが、ざわざわする。

「ほら、懸賞金がべらぼうに高い。4億‥6000万の」

「あらら、知ってるの」

思い当たらない、といった顔の連中とスキンヘッドの熱のはいりようにはだいぶ温度差がある。
指差された彼もへらっと言うが、その笑みはどちらかというと冷たすぎた。
冷たすぎて、醸し出す殺気も尋常ではなかった

「…っ」

ロビンも本能的に身を引くものの、2歩も引き下がらないうちに後ろの崖に行く道を遮られた。

「ひょろっとしてるが、大したやつだ。ロビンとセットで海軍にさしだすしかねぇな」

さすがに船長だと、褒めるべきだろう。彼の殺気に耐え、その言葉を言えたことに。




だが、運がわるかったと言わざるおえない。

「どうしても、海軍に差し出したいわけ?」

面倒臭そうにため息をついてから言う彼は、あんな殺気を放つような人間にはみえない。

しかし、諦めの悪い海賊に手加減する気もなかった。
パンッと胸の前で手を合わせ

「では…」

彼が口にしたとたん、空気がキンっと冷え、まるで雪が降ったあとの静けさになる。ただ一瞬だがその一瞬が長くも思えた。



ピキッという音と共に海賊たちの頭上に無数の槍が出現する。穂先はまるで意思があるように、彼らにしか向いていなかった

「『氷・槍』<アイス・ランス>」

透き通った凍りの槍が降り注ぐ。逃げ惑う暇もない。落下速度も早く、その力でいやがおうでも地べたに顔をつけるものもいる。

うめき声をもらすものや、痛みに任せて叫ぶもの。ただ、彼らは一人として死んだものがいなかった。

「抜かなきゃ死なないから。海軍も呼んだから、すぐに見つけてくれるさ」

何事もなかったかのように、うめき声の主たちに言う。



この光景はロビンにとって、脅威だった。腰が抜ける。

かつて、自分を逃がした男を思い出しまう。

「大丈夫?」

涼しい顔を振り返らせてロビンに手をかそうと手をさしだしたが、彼の手は彼女にはらわれた。

「ほっておいて」

ロビンがキッと睨みつけて彼をみる。サングラスの向こうにうっすら目がみえた。
その目は、ロビンに対して優しさのみを向けているような気がしたが、そんなものは見えてないことに彼女はした。

「ダメ。すぐに海軍の奴らがくるし。それに君に会いたかったんだ。そんなすぐにさよなら出来ないよ」

懲りずにロビンから目を離さず、てを差し延べてくる。

「なぜ、私に?」

「オレも世界政府に一族と国を潰された口でね」

ロビンは疑いの目を向けるが、笑顔を絶やさずに答える彼に、むしろ驚いた。



「ずっと、とは言わない。とりあえず今は一緒に逃げない?」



『ただ興味がわいただけ』
とそう思ってロビンが彼の手をとったのは




クロコダイルに出会う2ヶ月前。グランドライン上のとある島でのお話。